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stop, look and listen

音ゲーにおけるボサ・ノヴァと実際

 音ゲーにおいてボサ・ノヴァにアプローチしている音楽と、その実際について書きます。自分の独自解釈や偏見なども含まれており、随所の定義はあまり厳密ではありません。「なんでイヴァン・リンスが出てこないんだ!」とか「クァルテート・エン・シーとかオス・カリオカスとか、コーラス系の説明はどうした!!」という中級者以上の人は読み飛ばして頂いて大丈夫です。

 まず BEMANI シリーズでは「PAPAYAPA BOSSA」を思い浮かべる人が多いかと思います。「PAPAYAPA BOSSA」では女性のスキャットリムショットボサ・ノヴァを思わせる要素が多く入っていますが、その実、クラシック・ギターヴィオラン)ではなくピアノとトランペットのメロディが主体になっています。広義のボサ・ノヴァではピアノも重要な役割を締める楽器ではありますが、トランペットが入る場合、どちらかと言えばジャズ寄りであると言えます。

 ボサ・ノヴァとジャズが融合したジャンルには「ジャズ・ボッサ」や「ジャズ・サンバ」といった派生がありますが、逆にジャズの要素を取り入れつつ、より大衆向けにポップになると「MPB(エミ・ペー・ベー/ムージカ・ポプラール・ブラジレイラ)」の範疇になります。これは特定のジャンルと言うよりは昨今の音楽シーンにおける「EDM」のような性質のもので、ブラジルのポピュラー音楽ならMPB、といった感じになります。代表的…ではありませんが、MPBを更に独自解釈した楽曲で定評のある「オス・ピラントロクラタス(Os Pilantrocratas)」が個人的には白眉です。

 

 「PAPAYAPA BOSSA」にはフランス語バージョン「La Bossanova de Fabienne」もあります。フランスで創始したボサ・ノヴァのことを「フレンチ・ボッサ(bossa francaise)」と呼称する向きがあります。フレンチと言えば pop'n music にもフレンチ・ボッサの曲「COQUETTE」がありますね。フレンチ・ボッサの白眉と言えば「ナラ・レオン(Nara Leao)」で決まりでしょう。

 

 実際、初期のフレンチ・ボッサとボサ・ノヴァにはあまり楽曲的な差異がありません(成り立ちは違うのですが、その説明はここでは省きます)。フレンチ・ボッサがフレンチたりえるキャラクター性を確立するためにはナラ・レオンの登場からいくらかの時間を要します。昨今のフレンチ・ボッサにおいて代表的なのは「クレモンティーヌ」でしょうか。ボサ・ノヴァのコンピレーションなどにもよく収録されているので、聴いたことがあるという人も多いかもしれません…以下の例はちょっと極端ですが。

 

 BEMANI シリーズに戻りましょう。フレンチ・ボッサを標榜する他の曲としてはIIDXの「CHARLOTTE」があります。この曲ではウィスパー・ボイスがフレンチ・ボッサを思わせるものの、バックトラックがエレクトロニックな音色で構成されています。これはどちらかというと電子音楽にアプローチしているので「ボッサ・エレクトロ」と呼ぶのが適切でしょう。BEATMANIA 7th に「Cappuccino bossa」がありますが、これも「ボサ・ノヴァ」よりは「ボッサ・エレクトロ」が適切です。

 ボッサ・エレクトロとなると、それこそ数多のレーベル、楽曲が存在します。有名どころは Schema (イタリア)、Compost (ドイツ)。アーティストであれば Kaleidoscopioカレイドスコーピオ)などが有名でしょう。

 

 ただ、ボサ・ノヴァの要素をジャズやクラブに近づけていくと、どうしてもリズムを重視する向きからクイーカ(ウホウホウホホホ、みたいな音のアレ)などパーカッションを主体とするサンバの要素が強めに出てきます(ボサ・ノヴァもサンバから派生しているため、厳密に言えば間違いでは無いのですが)。ボサ・ノヴァの特徴的な要素は概ね断片的に他ジャンルへ伝染していく傾向が多く、BEMANI において言えばウィスパー・ボイスとボサ・ノヴァの特異なリズム(8分音符のハイハットとリムショット)がそれにあたると言えましょう。

 「ボッサ・エレクトロニカ」を標榜する「Reflection into the EDEN」はどうでしょうか。リズム・セクションがボサ・ノヴァのそれではあるものの、エレクトロニカな主張の方が強く、全体的にはトライバルな展開であり、ワールド・ミュージックへの接近を思わせます。ボサ・ノヴァではパーカッションを無くし、ギターでビートを鳴らすことを本懐としていた歴史もあるため、リズムの主張が主軸となる音ゲー曲に限って言えば、ボサ・ノヴァとしての主張は若干薄くなってしまうのは致し方ないかもしれません。

 とは言え、本来のボサ・ノヴァをそのまま音ゲー曲とすることは難しいでしょう。トム・ジョビン(Tom Jobim)やジョアン・ジルベルト(João Gilberto)など、著名なボサ・ノヴァ・アーティストの曲はリズム・セクションが薄い(あるいは無い)ため、クラブ・アレンジでそれを補う形になることは想像に難くありません。

 しかしジャズ・ボッサやジャズ・サンバなら、リズム・セクションの問題は解決します。セルジオ・メンデス(Sergio Mendes)やタンバ・トリオ(Tamba Trio)のメロディはもしかすると聞き覚えがあるかもしれません。

 

 

 昔から BEMANI のジャンル表記は正しくないと言われ続けていますが、ジャンル定義自体がそもそも曖昧だし、厳密にこれだという決まりがジャンル側で定められていない限り、きちんと特定のジャンルを標榜することは難しいと言えます。ボサ・ノヴァも厳密には「1950年代後半に生まれた、心地よく洗練されたサウンド」の事を指しますので、それを正確に踏襲することは今の時代においては不可能です。これは別に音ゲーに限った話ではありません。

 ただ、少なくともボサ・ノヴァの場合、最低限「ブラジル人の音楽であること」が求められるように思います。日本人ボサノヴァ歌手である小野リサも生まれはブラジルだし、ブラジル人以外のアーティストがボサ・ノヴァを標榜している例はあまり無いことからもこれが分かります。これは日本で言う「演歌歌手に外国人が少ない」のと近いものがあって「別に外人でもいいんだけど慣習的に母国の人がやるべき音楽」ということになっている、と言うイメージが強いからではないか、と言うことができるのではないかと思っています。

 しかしながら、日本でのボサ・ノヴァ人気は本国ブラジルでも認めるところ(ブラジル本国のボサ・ノヴァ好きがボサ・ノヴァのCDを入手したいと思った場合、在庫が潤沢な日本で買い漁るケースもあるそう)で、アイコンとしての「ボサ・ノヴァ」というフレーズは、これはこれとして生きていて、分かりやすいものであることは事実です。そういった視点から見れば、BEMANI における「ボサ・ノヴァ」はアイコンとしての役割は十分果たしていると言えるのではないかと、改めて思いました。

 以上、音ゲー界隈でボサ・ノヴァの話できる人が居なかったので半ば衝動的に書きました。

おまけ

 ボサ・ノヴァからブラジル関連へ発展させると BEMANI には Brazilian Rhyme という HOUSE MIX のトラックが存在します。これは原曲が Earth, Wind & Fire の同名曲なのでブラジル音楽ではありませんが、ブラジリアン・ハウスというジャンルは存在しています。サンバの要素を強く打ち出した佳曲が多く、サンバ・デ・ジャネイロなどは一度は聴いたことがあることと思います。

 

 これはアイアート・モレイラ(Airto Moreira)の「Tombo in 7/4」が原曲となっています(2:20~)。ジャズ・サンバの名曲です。

 

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